移籍の活性化

日本プロ野球選手会では、移籍の活性化に取り組んでおります。
現在の移籍制度の課題についてご説明しています。

移籍の活性化(国内移籍)

国内移籍における問題点(FA資格取得条件の緩和について)

■なぜ問題? ここが問題!

問題点1⃣

選手寿命と比べてFA権取得があまりに遅すぎる

 このFA資格取得までにかかる時間は適正なものなのでしょうか?
 例えば、1度目の国内FA権取得まで、入団から平均11年以上、その平均年齢は32歳を超えています。一方で、選手の平均選手寿命が約9年で、平均引退年齢は約29歳ですから、数字的にはFA資格取得には選手寿命のほぼ全てが必要なのが実態です。

問題点2⃣

FA資格取得者が限定されすぎている

 実際、毎年FA資格を新たに取得する選手はほぼ10人から20人の範囲におさまります。毎年の新入団選手の人数はほぼ75人から90人の範囲ですので、数字にタイムラグはありますが、プロ野球に入団した選手の約4人から6人に1人位しかFA資格を取得できない計算になります。ですので、現在のFA制度は、プロ野球選手全体の約8割の選手にとって、結局FA資格を取得できない、意味のない制度になっています。
 また、平均取得年数が約11年であり、実際に選手としてのピークを過ぎた段階で取得する選手も多数存在しますので、意味のあるFA資格取得者の比率はさらに限定されます。
 さらに、その上で、FA補償金という障害が存在することから、選手はFA宣言を躊躇するわけです。こうしてみるとFAは高卒など若くして入団しすぐに活躍し、しかも怪我でシーズンを棒に振ることのない、そんな特別な選手以外にはあまり意味のない制度になっていることがよくわかります。
 このようにFA制度は多くのプロ野球選手にとって利用できない制度となっており、移籍の活性化も全く実現できない状況です。

問題点3⃣

1軍登録日数が条件とされていること

 例えば、国内FA資格取得には、単に8シーズンプロ野球選手として契約するだけではなく、145日以上の出場選手登録が8シーズンに到達することが条件とされています。
 しかし、FA制度は、保留制度による球団からの拘束を解くという意味合いを有しているものですが、この球団からの拘束を解くという観点は、チームの中心選手についてだけでなく、出場機会に恵まれない選手に対しても与えられるべきものです。球団による拘束は、本来契約の期間内で認められるべきものであり、出場機会に恵まれない選手も契約期間中は球団による拘束を受けているわけですから、この球団による拘束を解くことは活躍の程度で左右される事柄ではありません。出場登録されない理由には、実力不足ということもありますが、怪我による場合なども多く、チームのために体を張ったプレーをしたり、チーム方針から無理をしたりした選手が怪我をし、そのためにFA資格要件を充たすことが遅れるということは不合理といえるでしょう。
 このように出場登録日数によって拘束状況が変わってくるということ自体極めて不自然であるといわざるをえません。そこで、経過したシーズン数ないしは年齢によってFA資格を認める制度に改善することを求めているのです。

問題点4⃣

過度の権利制約

 NPBにおける長期間の保留制度は、FA資格取得者を除き、選手が球団を選択する自由を一切認めておらず、憲法が保障する職業選択の自由を侵害し、その法的有効性には重大な疑義があります。この長期間の拘束の法的有効性を担保するのがFA制度であり、FA制度の構築にあたっては、選手の労働者としての権利に配慮した制度にする必要があります。

■球団の説明と選手会の反論

球団の主張①

高い契約金の存在

球団は、長期間の保留制度の根拠について、高い契約金を支払っているからと説明したりします。

選手会の反論①

契約金は球団を選択したことによる対価

 新入団選手の契約金の上限は1億円とされていますが、しかし1億円で平均11年以上も選手を拘束することが許されるのでしょうか?
 FAで1億円以上の再契約金が払われるケースもあり複数年契約が結ばれたりもしますが、その場合でも期間は3、4年といったところです。外国人選手が日本にやってくる際にも契約金が払われたりしますが、外国人選手の場合、複数年契約を締結した数年間が経過すれば他球団への移籍が自由に認められます。このような状況からすれば契約金はあくまで契約金であり、その球団を選択したということに対して支払われているというべきでしょう。そうでなければ契約金の金額で拘束期間は変わるはずですし、今はほとんど契約金なしで入団する選手も存在するわけですから。
 こうしてみるとこのFA資格取得条件、選手と球団間でしっかり話し合い、適切な条件に改善する必要があるといえるでしょう。

球団の主張②

選手獲得費用の高騰

 また、球団は、FA資格を選手が取得しやすくなると、球団は選手を確保、獲得するために激しい競争をせざるを得なくなり、選手獲得費用が高騰し球団経営を圧迫することになると説明したりします。

選手会の反論②

 しかし、このような問題は、あくまで需要と供給という市場の原理により定まるべき問題です。選手獲得費用の不合理な過度の高騰については、別の方法により抑制する方法を検討することもできるでしょう。
 むしろ、移籍市場に一部の特別な選手しか存在しないことで、供給量が少なく、価格が高騰している、つまり市場が正常に機能していない現状を考えれば、移籍市場に合理的な人数の選手が存在する状況を作り、市場が正常に機能するようにすることを考えるべきでしょう。Jリーグなどでは、移籍市場に選手がたくさん出ていますが、年俸が高騰するということはなく、選手の市場価値に応じた年俸の相場が形成されています。

■結 論

 選手会は、経過したシーズン数によってFA資格を認める制度に改善することを求めており、少なくとも海外、国内問わず、契約年数が7年を経過した段階で、FA資格が取得できるよう求めています。

国内移籍における問題点(FA補償金の撤廃について)

■なぜ問題? ここが問題!

問題点1⃣

高額な補償金による足かせ

 現行のFA制度では、国内FA権を取得したとしても、各球団における年俸ランクが1位から3位の選手は年俸の80%、4位から10位の選手であれば、年俸の60%もの補償金が必要となります(人的補償がない場合)。この年俸ランクが10位以内の選手のFA補償金は極めて高額となるケースが多く、この高額補償金が障害となって、FA資格を取得しても実際には移籍が難しいものとなっています。その上、この移籍の難しさから、FA宣言自体を躊躇するという例が非常に多くなっています。
 選手会が行った選手向けアンケート結果によれば、仮にFA宣言をした場合に、「補償金があることにより余計にお金がかかり取ってくれる球団がないのではと不安になる」または「補償金があることにより余計にお金がかかりまず移籍できない」とした選手が全体の42%で、「わからない」と答えた選手を除くと全体の約2/3の選手がそのような意識を持っているという結果が出ています。このことから、選手に対しての萎縮効果が働いていることがわかります。

 一方で、このFA補償金がない、各球団年俸ランクが11位以下の選手については、近年、活発なFA移籍がなされています。FA補償金がない場合、たとえ金銭的に裕福でない球団であってもFA選手の獲得が可能になるため、FA資格選手の移籍可能性が全球団に広がったためです。
 ですので、このFA補償金がなくなることが、移籍の活性化の第一歩となるのです。

問題点2⃣

外国人選手の移籍との関係で日本人選手の価値を下げてしまっている

 FA補償金をめぐる不均衡は、外国人選手の移籍との関係でも生じています。
 今の制度では、他球団が国内FA宣言をした選手を獲得するには、元の球団にその選手の前年年俸の80%から60%もの補償金を支払わなければなりません(年俸ランクが1位から10位で、人的補償なしの場合)。一方で、外国人選手を獲得するにはこのようなFA補償金の支払なく獲得できるわけですから、FA補償金の存在が日本人選手の価値を外国人選手と比べて下げてしまっているのです。

問題点3⃣

過度の権利制約

 選手保留制度の法的有効性を担保するのがFA制度であり、FA制度の構築にあたっては、選手の労働者としての権利に配慮すべきところ、このように根拠なきFA補償金を請求することは法的にみても極めて問題のあるものと言わざるを得ません。
 プロ野球界の保留・FA制度を一般社会に当てはめてみると次のようになります。
『 あなたが今勤めている会社から転職が認められるためには、
① 最低8年は今勤めている会社の主力部署でほぼ休みなく働かなくてはならない
② 転職する際には、転職先の会社が今いる会社に今の年俸の80%から60%を払わなくてはいけない 』
 こうしたルールが、憲法で保障される職業選択の自由、労働者としての権利を出来る限り尊重したものであると言えるでしょうか?

■球団の説明と選手会の反論

球団の主張①

投資の回収

 FA補償金を設ける1つ理由として、球団は、「契約金や選手育成等にかかった費用などへの投資を回収する」という説明をしています。

選手会の反論①

投資回収は既に済んでいるはず

 しかし、国内FA取得まで最低でも8シーズンは必要となる現行制度の下では、FA補償金が発生するFA移籍の段階でいくらなんでも既にその投資は十分回収されていると考えるのが普通ではないでしょうか。
 FA(フリー・エージェント)とは、そもそも「自由(フリー)」という意味です。最低8シーズンもの長期に渡り一定球団への所属を余儀なくされた選手が、自分の意志で職場を選択することができるというFA権のそもそもの意図を考えると、FA補償金の存在が著しくその性質を歪めてしまっていると言わざるを得ません。FA補償金がネックになり選手の獲得を諦める球団が増えるほど、選手が選択できる幅は狭くなるのです。
 加えて、現行制度では、2度目のFA権(反復FA)行使による国内移籍の場合も、FA補償金が必要となっています。
 ただ、1度目のFA権を行使した選手をNPB所属球団が獲得した場合、獲得した球団が支払った契約金は球団選択のために必要となった費用であり、また、1度でもFA権を行使した選手は既に完成された選手であるため、その選手にもう育成は必要ないはずです。
 ですので、2度目のFA権行使のFA補償金には、投資回収という要素はあてはまらず、FA補償金を設ける理由がありません。

球団の主張②

戦力の均衡

 FA補償金を設ける際に、球団は、「戦力均衡を図るため他の選手をFAで獲得する補強費として利用するので、FA移籍の足かせにはならない」と説明しています。

選手会の反論②

戦力均衡には寄与していない

 しかし実際には、FA補償金の存在は、国内FA宣言を行った年俸Aランク、Bランク選手を獲得する球団に対して大きな金銭的な負担を強いることになるため、資金の潤沢な球団以外は選手を獲得すること自体を躊躇せざるを得ません。
 そして、年俸Aランク、Bランクといった有力選手を獲得できる球団は、皆様ご存じのとおり、一部の補強資金の潤沢な球団に偏ってしまうという状況を生じています。補償金がむしろ逆に戦力の不均衡を生んでしまっているわけです。

■結 論

 選手会は、このように選手の流動化を著しく損ない、選手の過大な制約となると共に、有力選手の海外流出による危機が論じられる中で、いたずらに国内球団にも不利益をもたらしているFA補償金を、球界の活性化のために撤廃することを求めています。

国内移籍における問題点(期限付移籍制度の実施について)

 選手会は、球界の活性化のための球団の新たな戦力補強の方法として、期限付き移籍制度を提案しています。
 この制度が実現されれば、シーズン中に外国人選手の獲得ではなく、他球団の出場機会に恵まれない日本人選手による補強への目が向けられることが期待できます。日本人選手の移籍が活性化することになり、日本のプロ野球の盛り上がりにつながります。
 また、球団にとっても比較的安価な補強が可能になり、球団経営にもメリットがあります。期待の若手が他球団で活躍して、早期に成長するということも期待でき、球団にとっても選手にとっても多くのメリットをあわせもった制度です。

*1:トレード期限の趣旨と同一の点から一致させるべき。
*2:一度に限定することで、駆け引き無しの真の金額の提示を促すことができる。
*3:完全移籍が成立しない場合の査定については、現在も行われているシーズン中のトレードなどと同様の問題といえる。一定の活躍を見せた選手には、期待料ということも考えうる。ただし、活躍を見せなかった選手についても、減額制限規制の規制は当然生じる(これを超える場合には、戦力外通告を行うべきことは通常の場合と同様)。