選手会は、日本プロ野球の活性化のために、まず何より選手の移籍がより活発になることが必要であると考えており、この問題について積極的に取り組んできました。
選手会が実施したアンケートでは、ファンの視点からも、戦力補強の手段として、選手の移籍を活性化することを望む人が多いことが明らかになっています(半数以上のファンは、戦力補強の手段として「選手移籍の活性化」を望んでいる)。
この中で、選手会が考える移籍の活性化による具体的メリットは以下のとおりです。
近年、選手のトレードが活発になってきていますが、トレードはあくまで球団間のニーズが合致しなければ実現しないもので、また球団からの一方的な通告により実施されるものなので、以下のような話題性のある移籍になりにくいものです。そこで、選手会では、選手の意思に基づく移籍の活性化を目指しています。
NPBには保留制度という選手の移籍を禁止する制度があります。そのため、球団が保留権を有する選手については、国内国外を問わず、選手が、他球団に移籍するために契約交渉、練習参加等を行うことはできません。ですので、NPBでは、選手が自分の意思で他球団に移籍ができないのが大原則です。会社を自分で辞めて、他の会社に転職するように、球団を移籍することはできません。
そして、この保留権は、球団が保留権を行使すれば、現役中はもちろんのこと、任意引退後3年間は継続することとなっています。ですので、昨年引退した選手でも、任意引退選手となっていれば、翌年、他球団に復帰することはできません。
この保留制度の唯一の例外がFA制度です。
前述のとおり、NPBでは、選手が自分の意思で他球団に移籍することはできませんが、選手がFA権を行使した場合に限り、選手は、移籍するための契約交渉を行うことができます。現在のFA制度は、以下の内容になっています(2010年9月時点)。
2008年オフから、NPB所属球団であれば契約交渉を行うことができる国内FA権が設置されました。
1度目の国内FA権を取得するためには、145日以上の1軍登録が8シーズン(2007年以降のドラフトにおいて大学社会人出身者であった場合は7シーズン)に到達することが条件とされています。
2度目以降の国内FA権を取得するためには、前回の国内FA権行使後、145日以上の1軍登録が4シーズンに到達することが条件とされています。
国内FA権取得期間 | ||
– | ①06年オフドラフト以前入団(07シーズン新人まで)の全選手 ②07年オフドラフト以降入団(08シーズン新人以降)の高校出身選手 | 07年オフドラフト以降入団 (08シーズン新人以降)の大学・社会人出身選手 |
初回FA | 8シーズン | 7シーズン |
反復FA | 4シーズン |
また、FA権を行使してNPBに所属する他球団に移籍するためには、移籍先球団から移籍元球団に対して、金銭あるいは金銭と選手という補償が必要になるという補償制度があります。この金銭による補償(補償金)の具体的内容は、以下の表のとおりです。
FA補償金 | ||||
– | – | 年俸Aランク選手(1位から3位) | 年俸Bランク選手(4位から10位) | 年俸Cランク選手(11位以下) |
初回FA | 人的補償なし | 年俸の80% | 年俸の60% | なし |
初回FA | 人的補償なし | 年俸の50% | 年俸の40% | なし |
反復FA | 人的補償なし | 年俸の40% | 年俸の30% | なし |
反復FA | 人的補償なし | 年俸の25% | 年俸の20% | なし |
この年俸ランクは、移籍元球団における日本人選手のみの順番で決定し、同年俸の場合、出場登録日数が上の選手を、さらに同じ場合、年齢が上の選手の順位を下にすることになります。
続いて、NPB所属球団以外の球団、つまりメジャーリーグ球団などとも契約交渉を行うことができる海外FA権は、国内FA権とは区別されています。
そして、1度目の海外FA権を取得するためには、145日以上の1軍登録が9シーズンに到達することが条件とされています。2度目以降の海外FA権を取得するためには、前回の海外FA権行使後、145日以上の1軍登録が4シーズンに到達することが条件とされています。
なお、海外FA権を行使した場合、NPB所属球団以外の球団に移籍するための移籍先球団から移籍元球団に対する補償制度や、獲得人数の制限はありません。
①1軍登録日数のカウントにあたっては、1年で145日の1軍登録があれば、1シーズンとカウントされます。145日の1軍登録がなければ、145日に満たない年の1軍登録日数が合算され、合計が145日となれば、1シーズンとカウントされます。ただ、1年に145日以上の1軍登録があったとしても、145日までしかカウントされません。
②1軍登録日数のカウントに関し、2007年から、故障者選手特例措置制度、投手特例措置制度が設置されました。
これは、前年1軍登録日数145日以上を満たした選手が、2月1日から11月30日までに発生したグラウンド上での故障、けがにより、登録抹消された場合、登録抹消日から2軍の公式試合に出場するまでの日数を、1軍登録日数として加算する制度です。
加算日数は最大60日とされ、60日以内であれば、1シーズン中何度でも適用されます。ただし、この特例措置により1軍登録日数が145日以上になった場合の翌シーズンについて、この特例措置の適用を受けることはできません。
これは、先発ローテーション投手の1軍登録日数を加算する制度で、2種類の特例制度があります。
ひとつは、開幕時の投手特例制度で、先発ローテーション投手が、開幕日から7日以内に1軍登録された場合に開幕日から1軍登録されたものとみなし、1軍登録日数を加算します。
もうひとつは、オールスター時の投手特例制度で、先発ローテーション投手が、オールスター第1戦の7日前以降に登録抹消され、かつオールスター最終戦後7日以内に1軍再登録された場合に、登録抹消日から1軍再登録前日までの日数を加算します。
ご存知のように、FA制度とは別に、これまで、イチロー選手や松坂大輔選手ほか、何人かの選手がこのポスティングシステムを利用してメジャーリーグに移籍しています。
このポスティングシステムとは、海外FA権を取得していない選手の海外移籍を可能とする制度で、その概要は以下の通りとなっています。
1.海外への移籍を希望する、海外FA権を持たない選手の意志を日本球団が認めた場合、球団はNPBのコミッショナーを通じて、メジャーリーグ・コミッショナーに対して、その選手が契約可能選手である旨を通達する。
2.メジャーリーグ・コミッショナーは、メジャーリーグ各球団に対して上記通達の旨を告知(ポスティング)する。
3.メジャーリーグ・コミッショナーより通達があった日から40業務日以内に、ポスティグされた選手に興味のあるメジャーリーグ球団は、メジャーリーグ・コミッショナーに対して金銭のみからなる入札を提出しなければならない。
4.興味を示した球団が複数ある場合は、最も高額の入札額を提示した球団が日本球団との交渉権を得る。
5.交渉権を獲得したメジャーリーグ球団との交渉を、日本球団は選手の意志に関わらず一方的に拒否することができる。
6.メジャーリーグ球団が選手と契約に達した場合、選手はメジャーリーグ球団に移籍できるが、入札金額は、この選手の保有権を放棄する日本球団に、その対価として全額支払われる。