紛争解決手続きの公平化

プロ野球界でトラブルが起きた場合の解決手続きの課題についてご説明しています。

球団と選手でトラブルになった場合、NPBでは、誰がどのように判断して、トラブルが解決されるのでしょうか。
ここでは、NPBの紛争解決手続について考えたいと思います。

契約更改のトラブルの場合

契約更改で折り合えなかったらどうなる?

 毎年オフに行われる選手と球団との契約更改で、条件が折り合えない場合、選手や球団が取ることができる方法に、年俸調停制度(正式には、参稼報酬調停制度といいます)というものがあります。
 年俸調停制度は、年俸調停委員会が、選手、球団双方の言い分を聞き、年俸額を決定し、その年俸額で、次年度の契約が決まる制度です。したがって、自分の成績からみて、球団の提示額に不満がある選手は、この年俸調停制度を利用することができます。

なぜ問題? ここが問題!

 従前、年俸調停委員は、コミッショナーとセ・パ両リーグの会長が委員となり、調停を行っていましたが、2009年から、年俸調停委員は、野球協約違反などの事実を調査すること等を権限とする調査委員会の構成員である調査委員が委員となると変更されました。そして、年俸調停委員となる調査委員は、コミッショナーが任命することになっています。
 しかしながら、コミッショナーは、12球団のオーナーにより選ばれます。そして、年俸調停を行う委員は、そのコミッショナーが任命することになっているため、球団側から選ばれ、年俸調停委員の任命に関して、選手側は一切これに関与することはできません。わかりやすく言えば、トラブルになった場合に判断する裁判官が、一方の当事者のみから選ばれ、もう一方の当事者からは全く選ばれない状況になっています。
 もし読者の皆様が、選手の立場になった場合、このような年俸調停制度を信頼して、この制度を利用されるでしょうか。選手と球団との間で、次年度の契約条件について折り合えないのは、立場が違う以上、どうしても毎年何件か発生してしまうことですが、このようなトラブルを解決する場合、選手、球団双方にとって納得できる公平な制度がなければ、選手も球団も不満を抱えたまま次年度シーズンを向かえなければなりません。
 そこで、選手会では、年俸調停制度が、選手、球団双方にとって納得できる公平な制度となるよう、この年俸調停委員を、球団側から1名、選手側から1名任命し、もう一人をそれぞれが任命した年俸調停委員が任命するなど、年俸調停委員を、選手、球団双方にとって公平なメンバーにすることを要望しています。

ドーピング処分のトラブルの場合

ドーピング処分が納得いかなかったらどうなる?

 現在、NPB所属選手にドーピングが発見された場合、NPBアンチ・ドーピング規程に基づき、NPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会が、ドーピングを行った選手に対して、処分を言い渡すことになります。
 そして、この処分に不満がある選手は、NPBアンチ・ドーピング特別委員会に対して、異議申立てを行い、その裁定を求めることができます。
 実際、2008年、NPBでも、ゴンザレス選手(巨人)、リオス選手(ヤクルト)と、ドーピングが発見されたケースが2件発生しましたが、2選手は、共に、諸外国の事例と比較して、処分が不当に長いことなどを理由として、当時の不服申立て手続に従って、異議申立てを行いました。

なぜ問題? ここが問題!

 まず、ドーピングを行った選手に対して、最初の処分を判断するNPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会のメンバーは、NPBコミッショナー、NPB事務局長、NPB医事委員長、選手会事務局長、弁護士(現在はNPB顧問弁護士)、ドーピングに詳しい中立の立場の医師にて構成されます。
 ただ、NPBコミッショナー、NPB事務局長、NPB医事委員長、さらに現在メンバーの弁護士はNPBの関係者であり、ドーピングに詳しい中立の立場の医師も、NPBが選任しているため、NPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会のメンバーのうち、5/6はNPB関係者が占めることになります。
 また、最初の処分に対する異議申立てを判断するNPBアンチ・ドーピング特別委員会のメンバーは、ドーピングに詳しい者を含む3名の委員で構成されることになっていますが、この委員の選任に関しても、選手側は何ら関与できません。
 ドーピングを本当に行ったかどうかを含め、判断する者は、処分を求める立場にあるNPB、処分から自らを守らなければならない選手、双方にとって、公平なメンバーでなければ、その判断に対する納得感を得ることはできません。
 このような公平な判断機関の必要性は、世界的にアンチ・ドーピングを推進する世界アンチ・ドーピング機構(通称WADA)が定める、世界アンチ・ドーピング規程においても、「公正かつ公平な聴聞機関」が必要であると規定されていること、結果管理についての責任を負う機関(プロ野球界ではNPB)のメンバーが判断機関のメンバーを兼ねてはならないと規定されていることからも明らかです。
 そこで、選手会では、このNPBアンチ・ドーピング調査裁定委員会やNPBアンチ・ドーピング特別委員会の構成員についても、選手、NPB双方にとって公平なメンバーにすることを要望しています。