本件については、NPBが2020年9月7日のNPB実行委員会にて本ルールの廃止を決めました。その背景としては、公正取引委員会が2020年11月5日に「日本プロフェッショナル野球組織に対する独占禁止法違反被疑事件」として公表したとおり、同委員会の調査を受けてのものと考えられます。
それまでの選手会としての問題意識と合わせて、経緯については以下のとおりです。
2008年、当時新日本石油に所属していた田沢純一選手が、NPBを経ず、メジャーリーグ・ボストンレッドソックスと契約したことなどをきっかけに、NPBは、NPBのドラフトを拒否し、海外球団と契約した選手が、当該球団退団後、一定期間、NPBに復帰することを認めないルールを一方的に導入しました。
NPBが導入したルールは、アマチュア選手が、NPBのドラフトを拒否し、海外球団と選手契約した場合において、当該球団退団後2年間(高卒選手の場合は3年間)の、NPB所属球団との契約を禁止するというものでした。
このルールでは、田沢純一選手が、レッドソックスを退団したとしても、その後2年間NPBに復帰することができません。
このようなルールがある場合、NPBかメジャーかを迷っているアマチュア選手は、メジャー球団退団後、NPBに復帰できないことを恐れ、メジャー挑戦を諦める可能性もあるなど、アマチュア選手の将来の選択に大きな影響を及ぼします。
当時、NPBは、選手会に対して、このルール設定について、将来のNPBを背負う優秀な選手が海外に流出するのを防ぐため、やむを得ない措置だと説明していました。
もちろん選手会も優秀な選手がNPBに入ってきてくれることを望んでいますが、NPBが導入したこの復帰制限ルールは、選手が、日本のプロ野球球団と契約し、年俸を得るという経済活動を著しく制限することから、独占禁止法上明らかに違法であり、選手会は、NPBに対して、このルールの撤廃を求めていました。
ただ、そもそもアマチュア選手が、NPBではなく、メジャーリーグなどの海外リーグに挑戦するのは、選手本人が、NPBではなく、メジャーリーグに興味を持ったからであって、NPBが選手本人にとって1番興味のあるリーグではなかったということでもあります。
選手会は、日本プロ野球構造改革案でもご提案しているとおり、NPBが、アジア最高リーグとして、メジャーリーグと対等、あるいはそれ以上のブランド力とビジネス規模を有するリーグになることを目指すべきであり、日本のアマチュア選手にとって、メジャーよりも魅力のあるリーグになることが、最も重要であると考えています。
選手会は、今後も、復帰制限ルールのような制約をつける形ではなく、将来のアマチュア選手にとって、魅力あるリーグとしてNPBを選んでもらえるようなリーグを目指したいと考えます。
NPBは2000年から代理人制度を導入したものの、代理人を日本弁護士連合会所属の日本人弁護士に限定し、また一人の代理人が複数選手と契約することを禁止するという厳格な規制を20年以上にわたり実施してきました。この規制により、選手が代理人を自由に選択できない状況が続き、代理人の利用も進まない結果となりました。
さらに、NPBは他のスポーツには見られない長期の移籍制限と合わせて、選手の自由を大幅に制約してきました。このような状況を受け、2024年8月に公正取引委員会が審査を開始し、代理人規制について独占禁止法違反の可能性を指摘しました。
これを受けてNPBは同年9月2日に上記代理人規制の撤廃を決定し、9月19日には公正取引委員会から警告を受けるに至りました。
なお、NPBは、「本年2024年のシーズンオフからは、各球団が、これらを適切に判断して選手契約に臨むことになります」と公表とするにとどまっているため、球団の対応については、引き続き注視していく必要があります。
選手会は2000年に選手会公認代理人制度を導入し、NPBに対して制度の承認と健全な発展への協力を求めてきました。しかしながら、これらの要請は受け入れられず、代理人規制の見直しを継続的に要請してきた経緯があります。
今回の公正取引委員会による警告を受け、選手会はこれを歓迎するとともに、今後は代理人制度の適切な発展を目指し、選手が代理人を活用しやすい環境整備に注力していく所存です。具体的には、代理人交渉の実態調査やヒアリングを実施して不当な制限がないよう監視するとともに、選手会公認代理人規約を前提に、代理人についての登録制度(弁護士のみならずMLB選手会登録代理人やマネジメント会社を含む。)に基づき代理人に対する審査を実施し、かつ、ガイドライン等を設けることで、代理人の適正性を担保します。
一方で、定期的に各種研修等を実施することで公認代理人の皆様をサポートし、公認代理人の皆様との情報共有を含めた連携強化に努めてまいります。
このように選手会は、選手会公認代理人制度を軸として、球団と選手が対等なパートナーとしてフェアな契約更改・交渉に臨めるようにするために、様々な施策に取り組みます。同時に、健全な代理人制度の在り方について、NPBとの建設的な協議も進めていく所存です。