新ポスティングシステムについての当会の見解

平成25年11月14日
日本プロ野球選手会
事務局長 松原 徹


当会は、新ポスティングシステムを内容に含む日米選手協定(新協定)に関して、11月1日、文書をもって締結しないようNPBに申し入れ、協議を行ってまいりましたが、この度、12球団の選手会長を交えて当会内での意見を集約し、新協定を2年間に限定してこれを承認することといたしました。

ただし、当会は、これまでの考えのとおり、
(1)ルール上日本の選手に圧倒的に不利であり、日米対等という視点を欠く不平等なものであること、
(2)過去、岩隈選手、中島選手が落札球団と破談し、日本の選手、球団に多大な影響を及ぼしたこと、
などから、これまでのポスティングシステム及び新協定を適正なものとは考えておりません。
また、そもそも選手をあたかもモノのように競りにかける歪な制度が採用されている本質的な理由は、日本の選手の海外FA取得期間が9年と異常なまでに長期なことにあります。
そこで当会は、上記2年の間に新ポスティングシステムのような不平等な制度を是正するとともに、このような問題を生み出している根本的要因である現行保留制度について、海外FA取得期間の短縮を含む抜本的改革を行うことを同時に求めます。
従いまして、当会の冒頭の承認は、あくまでNPBが2年後の新協定の更新に応じないことが前提です。
この点につきましては、来月12月5日に予定されております選手会定期大会で更なる議論を行い、同大会に出席する選手の意見も確認の上、改めて正式にNPBに申し入れる予定です。

当会は、本来的には、日本の選手が米国に移籍するときにのみ不平等に課せられている新ポスティングシステム(米国の選手の日本への移籍にはこのような制限はない)は導入せず、また、海外FA取得期間の短縮を前提とする問題の抜本的解決を行うべきと考えております。
しかしご存知のようにNPBは意思決定プロセスに問題を抱えており、NPB内での重要な意思決定はしばしば先延ばしにされ、かつ重要事項が決定されにくい状況にあり、今回もMLBとの重要な交渉が首尾よく前進することが期待できないとの考えに至りました。
このNPBのガバナンス上の重大な問題につきましては、統一球問題における第三者委員会の10月25日付「調査報告書」でも、「決められない」組織であるNPBの組織的な問題点として指摘されています(同79頁以下等)。
当会としては、まずはこの問題の解決こそNPBが取り組まなければならない最優先課題との考えに至りました。
以上のような状況を踏まえ、当会としては苦渋の決断ではありますが、まずこのようなNPBの組織改革と、FA取得期間の短縮を前提とした新ポスティングシステムの改善を行うには一定の期間が必要であると考え、また、他方でその改革を行うための明確な期限を設定して、期間内にはこれが確実に遂行されるようにする必要があるという判断の下、上記の決断に至った次第です。

なお、当会として、将来の対等な日米関係の構築に向け、異議を唱えた新協定の問題点を別紙として添付致します。

新協定の問題点

1.複数球団との交渉が認められていないこと
平成22年に岩隈久志選手(楽天)をオークランド・アスレチックスが、平成23年には中島裕之選手(西武)をニューヨーク・ヤンキースが交渉権を得ながらも契約に至らないケースが起き、同制度の問題点が露呈しました。
妨害目的の入札とは確認されていないものの、1球団のみが独占交渉権を持つことが問題の原因であることは明らかで、当会は、再発防止のため複数球団との交渉権を認める制度とするよう求めてきました。
しかし新協定は依然、最高入札額を提示した1球団のみに独占的交渉権を認めるMLBに一方的に有利な制度です。

(詳しくは当会ホームページ・http://jpbpa.net/transfer/?id=1285571548-032370 参照)

2.制裁金の実効性への懸念
新協定では、契約不成立の場合に落札球団に制裁金を課す制度が新たに盛り込まれていますが、金額は、入札金のわずか2.5%、または200万USドルのいずれか低い額にすぎません(平成22年の岩隈選手の場合で考えると、2位入札球団の金額と推定される9億円の2.5%は、たった2250万円であり、1位入札額の約19億円からすれば約1%にすぎない金額です)。
しかも、制裁金はすべてMLBコミッショナー事務局に入る仕組みになっており、NPB球団と選手には何らの補償も行われません。
従いまして、制裁金制度が岩隈・中島選手のような破談事例を防止しうる制度になるかについては大いに疑問です。

3.不平等条約是正という観点の欠如
そもそも(MLB側の破棄通告により)昨年失効した旧日米選手協定は、NPB 球団の保留下にある選手をMLB 球団が獲得する場合にのみポスティングという手続を適用する非常に不公平な手続(MLB 球団の支配下選手がNPB球団に移籍するときは、MLB球団側の選手はNPB 全球団と交渉できるのに、逆の場合は、NPB 球団側の選手はポスティングにより最高額を入札した球団としか交渉できない)として締結されたものであり(当会の関与も一切ない状態で締結されました)、改定は不平等の是正という観点を持って行われるべきものです。
NPBは、当初こそ、日本から米国、米国から日本の各移籍を対等な条件にするよう求めていましたが、当会との十分な話し合いもないまま、MLB側に譲歩する姿勢を見せ始めたように見受けられました。

そもそも移籍の条件に影響を与える制度の交渉は、選手の直接の意向を踏まえた上で妥結されるべきであり、また、NPBの交渉姿勢は、もともとの旧協定が不平等条約であるという点を忘れた安易な交渉姿勢で、日本球界の将来を考えると大きなマイナスとなるのではないかとの懸念を抱いたというのが、当会からNPB宛の11月1日付申入文書の大きな趣旨の1つでした。

4.本質としてFA・保留制度を見直すという発想の欠如
そもそもこの問題を生み出している一番の要因は、NPBにおいてFA権を取得するまでの期間がMLBと比べてあまりに長すぎるという点があることも忘れてはなりません。もしNPBのFA権取得までの期間がMLBと同様に6年であれば、田中将大選手(楽天)はすでにFAとしてMLBの30球団とも交渉を行い海外に移籍できる立場となっていました。
NPBは、平成20年にFA制度改革を行った際、2年後に見直しをすると表明していましたが、平成25年の今に至るまで、見直しの議論は一切行われていません。
このFA権の取得までの期間(9年)は、選手寿命との比較で見ても、世界の他のスポーツリーグとの比較で見ても、異常に長期なものです。その上、この制約は、選手の野球人生、選手の権利を犠牲にしたものであり、これを正当化するための必要不可欠な理由なくして課せられるべきものではありません。
このように、海外挑戦を希望する選手の意思を尊重するためには、NPB球団が認めないと利用できないポスティングという形ではなく、FA権の取得期間を短縮することが抜本的な解決であることは看過されるべきではありません。

日本球界が取るべき姿勢

今回の問題は、NPB球団に所属する選手がMLBに移籍を希望する場合、その逆の場合と比較して著しく不平等な手続を課せられていることにあります。
よって当会とNPBが対立する問題ではなく、日本球界としてMLB側と交渉していくべき問題です。

新協定はMLB側の旧協定の破棄通告に端を発したものであり、MLBがNPB選手・球団が懸念する制度上の不備に耳を貸すことなく、不平等を内包したまま制度が施行されるとすれば、本来、日本球界としてどう対峙していくかが危急の問題のはずであり、この点で、この問題はいわゆるWBC問題と極めて類似した構造にあるといえます。
残念ながら、今のNPBには、こうした問題について責任をもって交渉にあたることのできる担当者がいません。これは個々の担当者の問題というよりも、組織的な構造の問題に起因しています。このことはまさに、10月25日付で公表された、統一球問題における第三者委員会の「調査報告書」にも「ウ 業務執行の決定権及び責任の所在の曖昧さ」(同75頁)として記載されており、今回の交渉も、統一球問題と同様、責任者が不明なまま、NPB事務局担当者に「一任」されてきたという経緯があります。これでは、真に日本の野球界の将来を考えた責任ある組織運営や、MLBなど外部関係団体との交渉は極めて困難であり大いに問題であるといえます。

以上


▲ページのトップに戻る