球界構造改革

≪ 1.移籍の活性化について
◆1.2 海外移籍における問題点
1.2.1 ポスティングシステムについて
 ■ ポスティングシステムとは
ご存知のように、2000年秋、オリックスブルーウェーブのイチロー選手がメジャーリーグ球団への移籍のためにポスティング制度を利用して注目を集めて以来、何人かの選手がこの制度を利用してメジャーリーグに移籍しています。 このポスティング制度は、日米間の選手の移籍について定める日米選手協定において規定されているもので、1998年12月15日、日米選手協定が新たに締結し直され、選手の新しい海外移籍方法として誕生した制度です。
ポスティングシステムとは、FA権を取得していない選手の海外移籍を可能とする制度で、その概要は以下の通りとなっています。
1. 海外への移籍を希望する、FA資格を持たない選手の意志を日本球団が認めた場合、球団は日本プロ野球のコミッショナーを通じて、メジャーリーグ・コミッショナーに対して、その選手が契約可能選手である旨を通達する。
2. メジャーリーグ・コミッショナーは、メジャーリーグ各球団に対して上記通達の旨を告知(ポスティング)する。
3. メジャーリーグ・コミッショナーより通達があった日から40業務日以内に、ポスティグされた選手に興味のあるメジャーリーグ球団は、メジャーリーグ・コミッショナーに対して金銭のみからなる入札を提出しなければならない。
4. 興味を示した球団が複数ある場合は、最も高額の入札額を提示した球団が日本球団との交渉権を得る。
5. 交渉権を獲得したメジャーリーグ球団との交渉を、日本球団は選手の意志に関わらず一方的に拒否することができる。
6. メジャーリーグ球団が日本選手と契約に達した場合、入札金額は、この選手の保有権を放棄する日本球団に、その対価として全額支払われる。

 ■なぜ問題? ここが問題! 

  • 問題点1: 日本球団に最高入札額提示球団を拒否する権限があり、選手の移籍希望の意思が尊重されない可能性がある。
  • 問題点2: 最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられ、選手に球団を選択する自由が全く認められていない。
  • 問題点3: 日本球団に支払う金銭による入札額のみで決定する手続きとなっており、その他の諸条件を考慮し得ない。
  • 問題点4: 最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられてしまうので、選手が複数の球団と年俸等の交渉を行うことができず、選手にきわめて不利な制度になっている。
  • 問題点5: 2002年の労使交渉によるメジャーリーグの課徴金制度の変更で、移籍の実現が非常に難しいものとなっている。

  • 問題点1:日本球団に最高入札額提示球団を拒否する権限があり、選手の移籍希望の意思が尊重されない可能性がある。
    問題点1

    イチロー選手の例でいえば、オリックス球団が仮に米球団の14億円の提示を拒否した場合、イチロー選手がいくら移籍を希望しても移籍できなかったことになります。

    問題点2:最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられ、選手に球団を選択する自由が全く認められていない。
    問題点2
    選手は、まるで競走馬がセリにかけられるのと同じようにポスティングにかけられており、自分が所属する球団を選ぶことは認められません。選手は、球団の"所有物"ではないのですから、競走馬が売買されるように扱われるのであれば、それはまさに人身売買そのものです。

    問題点3:日本球団に支払う金銭による入札額のみで決定する手続きとなっており、その他の諸条件を考慮し得ない。
    問題点3
    多くのファンが誤解しているのですが、イチロー選手のケースの14億円という入札額はオリックス球団に対して支払われるものであり、イチロー選手に対して支払われるものではありません。この入札額のみで独占交渉権を獲得する球団が決定されるため、イチロー選手の年俸に関する条件などは一切考慮されません。また、オリックス球団にとっても、代替選手の獲得などその他の条件が全く考慮できない制度となっています。

    問題点4:最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられてしまうので、選手が複数の球団と年俸等の交渉を行うことができず、選手にきわめて不利な制度になっている。
    問題点4
    イチロー選手の例では、マリナーズのみがイチロー選手と交渉できることになりますので、イチロー選手が他球団が提示する年俸と比較しながら交渉することはできないことになります。したがって、選手の年俸が公平な競争の原理に基づいて決定できず、適正なレベルとならない可能性があります。いうならば、メジャーリーグ球団にとっては選手の年俸を抑えることができる非常に都合の良い制度となっています。

    問題点5:2002年の労使交渉によるメジャーリーグの課徴金制度の変更で、移籍の実現が非常に難しいものとなっている。
    新労使協定において変更された課徴金制度により、ポスティング制度を用いたメジャーメジャーリーグへの移籍が非常に難しいものとなっています。新労使協定では、球団の年俸総額が1億1700万ドル(約140億円)を超えた場合、超過分に17.5%の「Competitive Balance Tax(ぜいたく税)」をかけて算出した金額を課徴金としてメジャーリーグ機構が徴収し、収入の少ない球団に配分することから、各球団とも年俸抑制に腐心しています。
    この影響で、日本からの移籍選手はおろか、アメリカのFA選手の契約にすらそのしわ寄せが来ています。例えば、メジャーリーグで2000年シーズンのオフに結んだFA選手の平均年俸額は863万ドル(約10億3560万円)だったのに対し、昨季オフは371万5000ドル(約4億4580万円)へと、約57%もダウンしています。
    このような状況では、年俸のほかに巨額の入札金を日本の移籍元球団に支払わなければならない現行のポスティング制度を利用した海外移籍の実現は非常に難しいものとなっています。例えば、年俸が10億の日本人選手Xがポスティング制度を利用してメジャーに移籍する場合と、同じく年俸が10億円の選手YがFAとして移籍する場合を比較した場合、入札額を仮に15億とすると、メジャー球団Aから見た場合、同じ年俸10億の選手を獲得するにしても、ポスティング制度を利用すると入札額の15億も余計に人件費がかかってしまうため、当然課徴金を掛けられるリスクが高くなります。メジャー各球団には、先ほど説明した理由から当然年俸を抑制しようとする力学が働きますから、ポスティング制度を利用した移籍は困難となるのです。大阪近鉄の大塚選手がこの例かもしれません。
    ポスティング
    また手続的にみても、選手の海外移籍に関する規定は、「選手契約に関係ある事項」であり、野球協約上選手側の賛成が必要とされている特別委員会決議事項と決められていますが、ポスティング制度は選手側の承諾を経ずに制定され、手続上も問題がある制度です。

     ■ 選手会はこう要望しています
    現在、選手会は、日米選手協定の見直しを要求しております。また同時に、選手会は、イチロー選手らの強い希望がかなえられたことについて、心から祝福しております。しかし、2002年の大塚選手のような課徴金制度の影響による入札なしという弊害も生じています。選手会は、この制度をより選手の意思を反映した、そしてより現実の状況に即したものに変更するため日米選手協定の見直しの要求を行っているところです。