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無償トレードの衝撃!
[2003/11/12]

福岡ダイエーホークスが、日本シリーズで劇的な逆転日本一を決めて行った優勝パレードの翌日、同チームの中心選手である小久保裕紀選手が巨人に無償でトレードされることが発表されました。小久保選手は、今年こそ開幕直前の怪我のためにシーズンを棒に振りましたが、昨年まで福岡ダイエーの選手会長を努め、その類まれな責任感、キャプテンシーから単なる中心選手というだけではなく、まさにチームの精神的支柱というべき存在でした。小久保選手から選手会長を引きついだ松中選手も小久保選手の姿を見て、小久保選手の存在を感じながら選手会長を努めていましたし、怪我をして離脱した後も選手たちは帽子に小久保選手の背番号「9」を書き込み、その存在を感じて一年間戦っていました。実際に小久保選手は、リハビリを続けていたアメリカから、20勝をあげた斉藤選手などへメールでアドバイスを送ったりしていましたし、日本シリーズ中もスタンドからチームを熱心に応援していましたし、まさに「存在感」でチームを支えていたといっても過言ではないでしょう。そのような存在感があったが故に、松中選手会長も「来年はこれに小久保選手が戻ってきて連覇をしましょう」と、日本一のビールかけでの乾杯の音頭で述べ、ファンのみなさんにも小久保選手のそんな存在感は伝わっていたことでしょう。

ところが、直後、小久保選手が戻ってこないことが発表されたのです。しかも、その発表内容は納得のいくすっきりとしたものとは言い難いものでした。福岡ダイエーの選手たちは精神的支柱を失ったことに大いに動揺し、同チームのファンとともに日本一の歓喜までが吹っ飛んだような状況となっています。同チームの選手会がハワイへの優勝旅行への不参加を表明し、ファンは球団へ連日抗議電話をかけ続けています。そしてこの発表内容の不透明感は、福岡ダイエーにとどまらず、その他のチームの選手、ファン、関係者にも少なからぬ衝撃を与えています。
福岡ダイエーの発表の内容は、
1. 小久保選手が希望したことによって小久保選手を放出することとしたこと
2. 小久保選手の年俸交渉に不利にならないよう小久保選手を無償で放出することとしたこと
3. 放出先は、巨人であること
というものでした。
この発表内容が納得のいくすっきりしたものでないことは、まず1のように小久保選手が移籍を希望したというがなぜ小久保選手が移籍を希望したのかがまったくはっきりしないことにあります。井口選手のようにメジャー移籍を希望しているのであればわかりやすいが、今回の移籍はメジャー移籍ではありません。チームの精神的支柱であり、これほどまでに責任感の強い選手がメジャー移籍でないにもかかわらず自らあっさりとチームを出ることを希望するはずがない、という思いが選手やファンの間にもあるわけです。また2のように小久保選手の年俸交渉に不利にならないように無償で放出したといっていますが、親会社の経営難から球団経営が困難になり球団売却がうわさされているチームが、チームの財産である中心選手をその選手の契約が不利にならないようになどという理由で無償放出するなどということは到底ありえません。金銭トレードであれば経営難のチームに収入をもたらすわけであり、通常であれば経営難の親会社に大きな影響を与えている銀行がそのようなことを許すことは考えられないからです。これを3の放出先が巨人であることと併せて考えると、おのずと一つの疑念にたどり着いてしまいます。

小久保選手がどのような事情であれ移籍を希望せざるを得なかった状況にあったのであれば、その移籍が実現したこと自体は良いことといえるかもしれません。欧州サッカーに関して下されたボスマン判決の例に従えば、プロスポーツ選手は労働者であり、選手は締結している契約期間が終了すれば、球団に拘束されることはなく自由に移籍できます。野球協約でどう定めていようと一年契約しか締結していない小久保選手も本来は自由なわけで、何ら移籍金なく無償で移籍することができるわけです。しかし、仮にそうであったとしても、「巨人に決まったから」などと移籍先を指定されるべき話ではありません。小久保選手ほどの選手であれば巨人以外であっても当然獲得を希望するチームは存在するはずです。球団が「小久保選手のことを考えて」の行動であったと主張するのであれば、他球団とも選手が自由に交渉できる自由契約とすれば良いだけであり(同一リーグが嫌であれば小久保選手にそう約束してもらえば良いでしょう)、何も球団が「巨人に決めてあげる」必要は全くないのです。そこには「巨人に決めなければならない」理由が存在していたとしか考えられないわけです。

過去の選手会通信でも取り上げましたが、福岡ダイエーの球団売却に対して、巨人の渡辺オーナーは「外資系投資会社には売らせない」などという国際問題を引き起こしかねない理由をあげ、球団解散までちらつかせて反対しています。しかも、この無償トレードの発表のほんの数日前に行われたオーナー会議において、中内オーナーはこの球団売却に関する確認書を提出しています。あまりのタイミングに、今回の無償トレードとこの球団売却問題を結び付けて考えてしまったとしても、ある意味仕方ないことかもしれません。巨人の球団社長が述べたとおり、「天から降ってきた話」なのでしょうし、巨人が小久保選手の無償トレードを求めたということではないでしょう。しかし、他球団の売却にクレームをつけ、その結果その球団の中心選手を無償で獲得することができたのだとしたら……。

「巨人の巨人による巨人のためのプロ野球」。もし、そんな実態があるのだとしたら、それは選手も、ファンも野球を愛する全ての人の気持ちを萎えさせてしまいます。実際、松中選手会長も「ふざけるなと言いたい。もう、この球団は勝たなくていいんでしょうね。終わりですよ。ファンには申し訳ないけど、連覇したい気持ちが急激に薄れている」と、率直に語っています。

このままでは、余りにプロ野球は政治臭い、不透明な世界に映ってしまいます。大衆に受け入れられるべきプロスポーツに大切なわかりやすさ、すがすがしさが全くありません。プロ野球界の将来のためにも、球団は、一刻も早く納得のいく説明を、選手、ファン、そして全ての野球を愛する人に対して示してほしいと切に望みます。

出展「週刊ベースボール2003年11月12日号より」


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